メモ帳

色んな所で見つけた文章を日々メモする用途

16世紀の科学書「自然魔術」より生命の水、アクア・ヴェイダの抽出方法

※あくまで創作に使うメモです。安易に真似をなさらないようにお願いします。責任は負いかねます。というかこれは酒の作り方です。

 

生命の水 アクア・ヴェイダ とは

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ヒエロニムス・ブランチエッグ著の公文書デ・アルテ「蒸留水」より生命の水挿絵(1500年)

ラテン語でaqua vitae(アクアヴィッテ)、フランス語ではeau de vie(オードヴィー)と発音し、 今日では北欧諸国でつくられているスピリッツ、aquavit(アクアビット)にその名を残している。生命の水は錬金術師達が求めたいわゆる「神に近付くための神秘なる水」の事を指し。その内容物はスピリトで、腐らず、生命を永らえる効果をもたらすと信じられていた。キリストの血といわれるワインの元、つまりブドウから蒸留する為、この実験により多くの蒸留酒の原型が生まれたという。

 

 

それは以下のようにおこなわれる。

乾燥した丘で育った強くて質の良いワイン

通称ギリシャのワインと呼ばれるような ブドウの最初の流出物をとる。

これを炭あるいは鉱泉の中でガラス製のレトルト器(物質の蒸留や乾留をする際に用いられるガラス製の器具)で蒸留する。

その三分の一を出して残りをとる。なぜならその三分の一の部分が、完全に酸っぱい酢に変化するからだ。

また生気のある精妙な部分が取り出されるので、ワインのかすだけが残される。同じくとっておいたぶどうを二回、三回と蒸留し、常に三分の一だけ除き残りを集めておく。

次に三キュービット(だいたい1.3716メートル)の長い真っ直ぐな首を持った器を用意して、この中で再び集めておいたワインかすを蒸留する。

最後に別の蒸留器の中にそれを入れ替えて、淹れ口を羊皮紙で塞ぎ、収水器のついた別の容器を上から被せて、口と口を蒸気が逃げぬよう固定し、下の器を加熱する。

ワインの希薄なスピリトがパイプの中を通って収水器にの中に落下する。通過不可能な粘膜は底に溜まっているので、粘膜からアルコールを浄化したければ、リンネルの布切れを粘膜に浸して全てを沁みこませ、布を燃やすとそれらは痕跡を残さず燃え尽きてしまう。あるいは粘膜の一部を平らな板の上に落下させ加熱すると、湿気もその跡も残さない。

わずかなスピリトでも孔を見つけて空中に逃げていかぬように、この術におけるあらゆる作業は蒸留器の口をしっかりと密閉することにかかっている。

もっとも密閉に適しているのは雄牛の生乾きの膀胱で、あるいは外の獣の膀胱を使っても適しているだろう。膀胱を切り身にして、湿っぽいうちに蒸留器の通気孔の周りに巻きつけると、蒸留水が逃げない。

石炭を燃やして蒸留器を温めると、ワインの燃え盛るスピリトは容器の首を上昇する。被せてある容器に蒸気が到達するまで、上の方は冷たく下の方は熱い。

そして蒸気が冷気に逢うと変化して、嘴を通って収水器に生命の水となって流れ落ちていく。上昇に時間のかかったものが、この一瞬にして収水器に生命の水と化し落ちてしまうわけである。スピリトが粘液から分離して再び上昇していくまでやろうとすると、蒸留器は中腹まで冷える。

私は、見えないスピリトが収水器の中へ見えないまま流出していく間、ワインの上昇するままに任せている。粘液が上昇する時、上の容器の中に泡がつき、パイプには水流が生じる。

行程を終えたら、ワインかすの死んだのをとりはらって、とっておいた新鮮なワインかすをまた下の器にそそぎ、同じ方法でスピリトを抽出し生命の水をためる。

       

   1558年  ジャンパッティスタ・デッラ・ポルタ 「自然魔術」                  

 

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オフェリア  アルチュール・ランボー

オフェリア  アルチュール・ランボー

 

星かげ浮かべ波立たぬかぐろき水に運ばれて
大白百合と見もまごう白きオフェリア流れゆく
長き被衣に横たわり、いと静やかに流れゆく
遠くかなたの森のかた、鹿追いつむる狩の笛

 

すでにして一千余年、長くかぐろき川水に
悲しきさまのオフェリアのほの白き幻流れ、
すでにして一千余年、狂恋の姫が恋歌ひそやかに
岸の夕べのそよ風にゆれてきこゆる

 

夕つ川風乳房なめ、水にたゆとうひろやかな
彼女がかつぎばなかともうちひるがえす
柳の糸はもだえつつその撫肩に涙しつ
芦のしだり葉うなだれて夢見る額いたわりつ

 

愁傷の睡蓮、彼女をめぐり溜息し、
木立なるねぐらの小鳥、彼女悼みてめざめいで
ひそやかに羽ばたきのわななき洩らす
金の星、み空より神秘なる歌声おとす


おお、蒼ざめしオフェリアよ、淡雪の美しくはかなく
花乙女みまかりつるよ、流れの水に運ばれて!
ノルウェー高嶺おろしのつぶやきの
自由の風にさそわれて!

 

おくれ毛なぶる未知の風
夢多き君が心をいざないて
樹の嘆き、夜のためいき
自然の声と君ききて

 

大いなる残喘に似る海の声
温情の、静淑の君が心を傷つけて、
四月とある日蒼白の風狂子、美貌の騎士の
もの言わでおん身が膝によりたるに

 

天国とや、恋慕とや、自由とや

何のたわけぞおお、狂女


君すがりしよ、その夢に、雪の火にすがるがごとく
大幻影は怪しくも君が言の葉奪いにし

さるほどに苛酷の「無限」水色のおん瞳消し去りつ

 

さりながら、かのうたびとの言うようは、星の夜な夜な
摘み置きし昔の花を探すとて、おん身来ますと
水のえに長き被衣に横たわり
大白百合と見もまごう白きオフェリア流るるをその目に見しと

 

                   掘口大學訳

 

 

 

オフェリア  アルチュール・ランボー

 

星々の眠る静かな黒い波の上を
蒼白のオフェリアが大きな百合のように漂っている
長いヴェールに身を横たえ、とてもゆっくり漂っている
―─遠くの森で猟師の角笛が聞こえる

 

もう千年以上も前から、悲しいオフェリアは
白い幽霊となって、長くて黒い河の上を通り過ぎ
もう千年以上も前から、その優しい狂気は
夕べのそよ風に恋歌を囁く

 

風はその胸に口づけし、物憂げに水に揺れる大きなヴェールを
花冠のようにひろげている
ざわめく柳は肩の上ですすり泣き、
夢見る広い額の上に葦が身をかしげる

 

機嫌をそこねた睡蓮がそのまわりで溜息をつく
時おり彼女は、眠るはんの木のなかの
何かの巣を目覚めさせ、そこからかすかな羽ばたきが逃げてゆく

 

___不思議な歌声が黄金の星々から降ってくる

 

おお、蒼ざめたオフェリアよ! 雪のように美しい!
そう、いとけないおまえは、河に運び去られて死んだのだ!
__ノルエーの大きな山々から吹き降ろす風が
小声でおまえに荒々しい自由のことを語っていたから

 

一陣の風が、おまえの豊かな髪をねじって
おまえの夢見がちな精神に奇妙なざわめきを運び
木の嘆きと夜々の溜息のうちに
おまえの心が「自然」の歌声に耳を傾けていたからだ

狂った海の声、広大な喘ぎが、あまりに人間的であまりに優しい
おまえのいとけない胸を打ちのめしていたからだ


ある四月の朝に、ひとりの蒼ざめた美しい騎士が
ひとりの哀れな狂人が、おまえの膝に黙って座ったからだ!

「空」! 「愛」! 「自由」!

何という夢なのだ、おお、哀れな狂人よ!

 

おまえはその夢に溶けていた、雪が火に溶ける様に
おまえの大いなる幻がおまえの言葉を絞め殺していた

 

__そして恐ろしい「無限」がおまえの青い目を驚かせたのだ!

 

___そして「詩人」は言う

星々の明かりのもとに…
夜になると、おまえは自分が摘んだ花々を探しにやって来る、と
そして蒼白のオフェリアが、長いヴェールのうちに横たわり、
水の上に、大きな百合のように漂うのを見たのだ、と

    

                                           鈴木創士訳

 

 

 

 

 

ベルギーバンドDAAU

いくら人に勧めても日本語の見本がないんじゃ流行りようがないと思い、あまり気乗りしないのですが動画を貼ってみました。

このアルバム「新しい命の必要性」のジャケット捲ると、生まれたばかりの動物がわらわら乗っててパンク極まりない…というか一見グロい…

一応クラシックに分類されるバンドなんですがその方向性は独特で、

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サイモン・レンスキーの引き紡ぐ様な高音のチェロ

 

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ハン・スターヴの茫漠としたクラリネット

 

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ロエル・ヴァン・キャンプのオモチャ感漂う軽快なアコーディオン

 

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あと最近はハンネス・デ'ホイネさんのベース

が加わって不協和音との境目ぎりぎりを行くホラー染みた旋律が魅力です。

 

このバンドたまたまラジオで放送されていて、一曲聴いただけで引き込まれたんですがまあ日本に入って来ない事来ない事。日本人のファンなんか私以外いるのかという知名度の無さぶり…ベルギーワッフル並みに浸透したらいいね!(希望)と期待をこめて輸入CDを買いまくる日々でした。何だかばらばらになっちゃったみたいだけど今年も新しいアルバム待ってます。

レイディオヘッドのカヴァーもしてますぞー

 

コトブキヤのクラウドフィギュアが届いた2

今度こそまともに撮ろうと思い一念発起したけれど

f:id:zigokutan:20140619205901j:plain前回と変わらん…

 

f:id:zigokutan:20140619205851j:plain男らしい顔です

胸囲がわりとある…(気がする)

 

 

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白目が三方で下三白眼。

俗に云う「黒目(晴)」が上に吊り上ることによって、左右だけでなく、黒目の下にも白眼が覗く目のことを「下三白眼」と云います。欧米のセクシー系女優やファッションモデルなどに多く見かける相で、気位が高く、性的駆け引きの巧みな人に多いものです。魅惑的な下三白眼は男性より女性に多い相ですが、男性を自らの支配下に置くことで性的快感を得ていくのが特徴と云えます。同じ下三白眼でも或る種冷たさを感じさせる下三白眼は、人の心を踏みにじるタイプで、殺人者や凶悪犯罪者にしばしば見受けられます。格闘技者も、闘っている時は下三白眼となるものです。

 ほんまかいな(ハナホジ)

 

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ベルト。

お花みたいになってますがかろうじて昔のデザインです。最早デザインとして消えてしまった肩当ての肉球みたいな跡が懐かしい。

f:id:zigokutan:20140619210926j:plain頭。

思えばこの頃からちゃんとつむじあったんですねえ…

 

凄く出来が良いコールドキャストではないらしいですが、90年代製のなんとも言えず垢抜けない泥臭い面容が個人的にはとっても好きで満足しました。次はディトナに乗ってるバージョンも探してみようかなと思います。

レイ・ブラッドベリ 「あとがき____生きるなら走れ」

おしまいに、

すっかり年輪を重ねた少年魔術師、かくいう私と、そしてあなた向けて、

何かアドバイスはないだろうか? 

夜明けの劇場のざわめきにあなたの鼻の詰まりが取れてきたら、

ぐずぐすしない事だ。

飛び起きろ。

声はいつ何時、消えてしまうかもしれない。

頭をはっきりさせようと、シャワーに飛び込んでいては手遅れだ。

スピードが肝心。

時速90マイルでタイプライターに駆けつける事____

それが放埓な生と、隠れもない死の一番確かな治療法なのだ。

生きるなら走れ。

そう、その通り。

生きろ。そして書け。全速力で。

 

   

 

      レイ・ブラッドベリ 「あとがき____生きるなら走れ」より抜粋

 

 

 

レイ・ブラッドベリ「最後の秘跡」より

 ハリスン・クーパーはそっと立ち上がり、階段口をうかがってから、香り高いひとかかえの本を持って病室へ入った。両脇に蝋燭を灯したベッドには、もうすぐ死を迎える男が仰臥(ぎょうが)していた。 腕を真っ直ぐのばして脇に添え、頭を枕に重たくあずけ、目をぎゅっとしかめて閉じ、引き結んだ口は、天井に、というかその運命そのものに、はやく下がってきて命を奪うがいいと挑んでいるかのようだった。

 本が、まずベッドの一方で、ついで他方で手に触れると、老いた瞼がぴくぴく動き、乾いた唇が割れた。鼻孔から空気が洩れ出た。

「だれだ」

老人は小さな声でたずねた。

「いま何時だ」

「…口の辺りが不快感を覚え、胸の内にじとじとと十一月の霧雨が振り出すといつも、わたしはすこしでもはやく海に出る時だと思うのだ…」

ベッドの足元で、旅行者は静かに引用した。

「なに、なんだと」

ベッドの老人は口早にささやいた。

「…それが私の気鬱を晴らし、血行を良くする秘訣である」

訪問者は引用を続けながら移動して、死に行く人の両手の下に一冊ずつ本を置いた。わななく指が本をさすり、引っ込み、また触れて、さながら点字を読むふうだった。

 見知らぬ訪問者は、本を一冊ずつ手にとって、表紙を見せ、なかの一ページをひらき、それからタイトルページをひらいて見せた。するとその小説の印刷の日付が、波の様に盛り上がり、ただよい、だがどこか遠い未来の浜辺にいつまでもとどまる。

 病人の目が、表紙を、タイトルを、日付を順に見、それから訪問者の明るい顔へ上がって止まった。はっとした表情になって、老人は息を吐いた。

「おい、きみは旅行者のようじゃないか。どこからきた」

「時代が顔に出ますか」

ハリスン・クーパーは身を乗り出した。

「じつはーーーあなたに伝える告知事実(アナンシエイションがあります」

「受胎告知アナンシエイションなんてものは、処女にだけあることだ」

老人はつぶやいた。

「この誰にも読まれぬ本の下に処女は埋もれていない」

「僕はあなたを掘り出しに来たんです。遠隔の地から知らせを持ってきました」

「わたしのか」

小さな声が、そうきいた。

 旅行者は重々しくうなづいたが、老人の顔色が暖かみを増すのを見て、微笑を浮かべた。

老いた目と口元の表情が、にわかに熱気をおびた。

「すると、まだ望みはあるのか」

「ありますとも」

「信じよう」

老人は一息つき、それからふと、いぶかった。

「しかし、なぜだ」

「それは」

ベッドの足元に立つ見知らぬ男はこたえた。

「僕はあなたを愛してやまないからです」

「わたしは君を知らんぞ」

「僕は貴方を知っています。---船首から船尾まで、左舷から右舷まで、メントゲルンマストからガンネルまで、ここにいたるまでの長い人生のすべての日の貴方を」

「おお、なんと甘美なひびきだろう」

老人は叫んだ。

「君の口から出る一言一句、君の目から光る一光一閃に、世界の礎たる事実がある。どうしてなんだ」

老人の目に涙がきらりと光った。

「なぜなんだ」

「この僕が、真実そのものだからです」

と、旅行者は答えた。

「僕は貴方に逢って、ひと言伝えたく、遠路はるばるやってきました。貴方は決して埋もれてはいません。貴方の生み出した巨獣は、しばし海中に没しているだけです。まだ前方に見えないが、やがてある年、名声赫奕たる人々、市井の無名の人々が、貴方の墓所に集い、『彼は水から躍り出る、立ち上がる、躍り出る、立ち上がる!』と叫ぶでしょう。すると、あの白い影が光の世界へ浮上するのです。大いなる驚嘆は嵐の中へ、轟くセント・エルモの火の中へ現れ出て、それにはあなたが一緒です。互いに身を縛め合って、彼がどこで動きを止め、貴方がどこから動き出すのか、どこで貴方が止まって、彼が疾走するのか、知るべくもありませんが、彼と貴方は世界を巡り、その航跡を追って図書館の大船団が出現する事でしょう。そうやって彼と貴方が、下級のそのまた下級の書誌学者ら、そして読者の、名も無い大洋を突き進むと、彼らは甲板を磨きつつ、貴方のたどる遥かな潮路を海図にえがき、荒れ狂う午前三時にどこからか聞こえる貴方の雄たけびに耳をすますでしょう」

「ほう!」

屍衣(しいとなるシーツを着た人はいった。

「いいことをいってくれるじゃないか、じつにいいことを。本当なのか」

「本当です。この手をのべて誓い、我が魂と生き血にかけて誓います」

訪問者が位置を変えてそのとおりにすると、ふたりの男の拳は合してひとつになった。

「この贈り物を墓へお持ちなさい。最後の時を迎えたら、ロザリオをつまぐるつもりで、このページを繰るのです。これがどこから来たか、誰にも口外してはなりません。嘲弄者達は貴方の指からロザリオを払い落とすでしょう。だから貴方は、夜明けの前の闇の中で、こうロザリオの祈りを唱えるのです。我は永久に生きるなり、と。それでもう貴方は不滅の人です

「もういい、もうやめてくれ。黙ってくれ」

「黙りません。きいてもらいます。貴方の通ったあとには、火と燃える道が続くでしょう。それはベンガル湾にも、インド洋にも、喜望峰にも、ホーン岬の向こうにも、この世界の果ての彼方にも、およそ目路の及ぶかぎり続いて、奇跡の様に明々と燃え盛るでしょう」

彼は老人の手をいっそう強く握り締めた。

「誓って予言します。この先幾歳月、幾万という人が貴方の墓を訪れて、貴方を安らかに眠らせ、貴方の骨を暖め続けるでしょう。きこえますか」

「よし、我が最後の秘跡を執り行う司式はきみに決めたぞ。わたしは自分の葬儀を楽しむのではあるまいか。きっと楽しむ」

 解き放された病人の手は、左右に置かれた本にひしとすがり、熱意あふれる訪問者は、べつの本を次々に取って日付を読み始めた。

「1922年…1935年…1940年…1955年…1970年。これが読めますか。この意味がわかりますか」

最後の一冊が、老人の顔前ににかざされた。燃える瞳が動いた。老いた口がかすれた声を洩らした。

「1990年?」

「貴方の年です。今夜から数えてちょうど100年です」

「本当か!」

「…もう行きます。でも今度は…僕が聞かせてもらいます。第一章冒頭。さあ、どうぞ」

老人の目が滑らかに動いて輝いた。舌で唇を潤し、まず声には出さず単語を辿り、ようやく、涙を流しながら囁いた。

「イシュメールと呼んでもらおう」

               

 

               レイ・ブラッドベリ 「最後の秘跡」より

 

 

このお話はいわゆる書痴の主人公が、タイムマシンを開発し、不遇に死んでいき後世評価された作家をたずねるお話です。もうお気づきの方もいらっしゃるでしょうが、引用した部分は「白鯨」「ビリー・バット」のハーマン・メルヴィルの死に際に会いに行くシーンです。白鯨の方は何度も映画化されているので映像の方が有名かも。


Moby Dick trailer - YouTube

 

私はというとあまりメルヴィルに詳しくなく、中学生の頃原作を読んで、あまりの比喩表現の多さにミジンコ並みの脳が破裂し「は???」となりながら映画を観てやっと、どういう話なのか納得できたくらいのお粗末さです。特にこの場面を引用したのは、自分がそういった不遇だった作家達に愛してると伝えられたらどんなに良いだろう!と思ったからです。

主に宮沢賢治とか宮沢賢治とか宮沢賢治とか。やっぱりね、そんな事ありえないとわかってても、絶望とあきらめの内死んでいった敬愛するあの人の最後は、希望に包まれて、安らかであって欲しいと願うわけですよ。一読者なら小癪だわと思われるけども、その気持ちをブラッドベリさんが書くんだからもう誰も何もいえないよね。そこにしびれる憧れる。

以上、レイ・ブラッドベリ著 短編集1999年「瞬きよりも速く」から「最後の秘跡(原題Last Rites)」抜粋でした。